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渋沢栄一の故郷を巡る(吉田庄一)

 

    熊谷市在住の方に、深谷市の渋沢栄一ゆかりの地を案内しました。簡単ではありますが、順を追って記録します。

 

1.大河ドラマ館

 まず訪れたのは、NHK大河ドラマ「青天を衝け」に合わせた期間限定の施設「大河ドラマ館」。ここからスタート(9:15)。案内した方がJAFのカード持参だったので20%OFFで入場。開館は9時ということで、まだ早かったのか意外に空いている。また、しつこい説明もなく今放送されているドラマのイメージを大まかに体感できる。お昼は、麺屋忠兵衛でとの希望で11:30に予約。先が組みやすい。あと高島秋帆幽囚の場所をとの希望もあり、私も行ったことが無かったので、係の方に聴いてみたが知らなかった。大体は想像できるのでその辺は適当に行こうと思う。

 

2.煉瓦工場旧事務室と備前渠鉄橋

 旧事務所は土日と祝日のみ開けているそうだ。行った金曜日は通常は閉まっているが、たまたま栄一の命日(11月11日)の関係で開いていた(ラッキー)。私の関心はホフマン輪窯の工事がいつ終わるかだったが、あと3年かかるそうだ。子どもの頃、深谷市の地場産業といったらネギに窯業(瓦に土管)だった。栄一は、故郷のきめ細やかな粘土質が煉瓦製造にも適していると思ったのだろう。この地に日本煉瓦製造株式会社を創設した。製造された煉瓦は、東京駅、迎賓館、法務省など建設に使われ明治の近代化に貢献したが、その役割はだいぶ前に終わっていた。深谷市が近年盛んに煉瓦での町おこしに躍起になっていたが、深谷駅くらい(最近は市庁舎)で成功していないと思う。

 さてこの煉瓦工場の場所は河川交通に便利な小山川沿い(すぐに利根川に合流する)にあったが、鉄道が敷かれると深谷駅まで引き込み線を敷設した。これが日本で最初の工場専用線となり、川を跨ぐ鉄橋も作られ、備前渠鉄橋は重要文化財になっている。今見ると何の変哲も無い橋だが、明治時代としてはやはり画期的で、日本の橋梁建設にも大きな影響を与えたと思う。今この専用線は、現在深谷駅までの遊歩道として整備(約4km)されている。

    案内した一人はかなりの映画好きだったので、小山川にかかる小山橋について説明した。家代巳代治監督の「恋は緑の風の中」(主演、佐藤祐介、原田美枝子)、今から50年くらい前の映画だが、先生役の三田佳子が渡っているシーンが蘇る。当時の橋は煉瓦ではないが趣のある橋だった。

 

3.ネギ畑、中瀬そして利根川

 今は往時の面影はないが中瀬を案内した。煉瓦工場から中瀬までは、ネギ畑の中を走る。今は温室が目立つ、キュウリとかトマトを栽培しているのか。実は、「最後の空襲・熊谷」を買った中瀬にお住まいの方から、熊谷空襲時に中瀬にも空襲があり2名亡くなったとの電話をいただいた。個人的には、熊谷周辺の被災状況を調べたいと思っているところである。

    案内した人たちはブラタモリを観たと言っていたので利根川の土手まで上がってみた。ブラタモリで紹介された利根川の水運で賑わった町並みはないが、利根川は物資だけでなく、この地に文明、文化をもたらしたことは想像に難くない。中山道や例幣使街道の間に利根川があったことは、改めて確認しておきたい。江戸時代の感覚からすると、中瀬、下手計、血洗島と交通の便は結構良いのだ。

 

4.麺屋忠兵衛(煮ぼうとう)

 途中にお店から電話があり、なんと昼食時間を11:30から11:00にしてほしいと依頼されたので、そのままお店に向かった。中ん家(なかんち)前の駐車場に車を入れたが、駐車場がきれいし整備されていた。大河ドラマの影響だろう、平日でも観光客が多い。丁度11:00にお店に入ると、先客は1組だけだった。11:30頃からどっと入ってくるのか、店員も多い。前回4年前に来たときは店員がいなく、裏の竹林まで探しに行ったものだ。結局、煮ぼうとうが出てきたのは11:30だった。

 お連れしたお二人は初めてらしく、美味しいと言っていた。よく山梨のほうとうと比べられるのだが、昔から食べてきた者としては全然違う。実はこれも数年前、山梨でほうとう作りを体験、粉から作り食したことがある。これはこれで美味しいと思った。深谷育ちの私のソウルフードはやはり煮ぼうとうだ。このお店に栄一の掛け軸がある。取り扱いや推しだしが年々強くなっている。2つしかないメニューの裏は「天意重夕陽人間貴晩晴」の説明が詳しく書かれていた。

 

5.中ん家(なかんち)

 麺屋からは東門をくぐり中ん家に入る。さすが、観光客が多い。このところ話題のアンドロイドが、帰省時の栄一の部屋に鎮座している。裏の蔵や竹林、その向こうの清淵公園がなんと言えない空間を作っている。平九郎の追懐碑、たで藍などを観て正門から出ると大型バスが止まっていた。クラブツーリズムだ。昔から思っているのだが、母屋や蔵など中まで見学できればいいのだが。

 

6.薬師堂、弔魂碑、地蔵そして諏訪神社

 新しくなった中ん家の駐車場の道を挟んで南東に小さな薬師堂がある。ここにある大きな地蔵は、東ん家(ひがしんち)の宗助が建立したと聞いたことがある。今回はその隣の弔魂碑だ。筑波山で挙兵した水戸天狗党は京に向かった。例幣使街道から中山道に向かうのだが、幕府は阻止すべく防御線を築いていた。天狗党の面々は、利根川を渡りこの地を通過したという。その際に撃たれ亡くなった2名の浪士を悼んで栄一が建立したのだ。若き日の栄一と天狗党の関係がわかる。

 小道を100mほど進むと、ドラマで取り上げられ有名になった獅子舞の諏訪神社がある。清掃が行き届いていて気持ちがいい。鳥居の左に「宮城遙拝」の石碑があった。皇紀2600年を祈念して建てられたみたいだ。今では貴重な歴史遺産である。諏訪神社は明治時代に建て替えられた。栄一が3,000円寄進している。その目録が渋沢栄一記念館に展示されていた。また、諏訪神社の社殿を背景にした集合写真をあちこちで見た。これは爵位を受けて帰省した時の記念写真だそうだ。

 

7.渋沢栄一記念館

 建物に比べてこじんまりした資料室だが、目的を持ってみるといろいろ発見もある。2階に上がると、順路でアンドロイド栄一の講義が聴けるらしいが、この日はやっていなかった。但し体育館ではスクリーンに映像が流されていて、スタジアムの観客席のような客席になっていて、丁度いい休憩となった。栄一が亡くなり飛鳥山から青山斎場までの車列が放映されていた。当時のニュース映像か。本で読んだことがあったのだが、車列80台、沿道に別れを惜しむ人約3万人とあったと記憶している。これが裏付けられる映像だった。

 

8.華蔵寺および華蔵寺美術館

 華蔵寺は渋沢家の菩提寺だ。ここに美術館があることは何となく知っていて、この際行かせてもらうことにした。ここまで観光客は来ていないようだ、美術館も閉まっていたが開けてもらい見学することができた。仏像・仏画、書、絵画などかなりクオリティーの高い作品が展示されている。平山郁夫、中島千波、山下清、横山大観、小林一茶、西郷隆盛などなど誰でも知っている大家や歴代住職の書(これは一見の価値あり)など。途中から住職に説明をいただいた、金井烏州の屏風は、現在群馬県立美術館に貸し出し中という。栄一や東ん家の宗助の書も展示してあった。

 私が住職に元治博士とお会いしたことがあると話したら、葬儀は青山斎場で執り行われ、あのような葬儀は最初にして最後だなと語ってくれた。

 

9.道の駅 おかべ

 案内した方が寄りたいということで、尾形惇忠生家や誠之堂は後回しにして、華蔵寺からも比較的近い、道の駅おかべに向かう。ここは、母を連れて何回も訪れているのだが、亡くなってから来ていなかったので久しぶりだ。新しい店も出来ている。ここでコーヒータイム。

 

10.高島秋帆幽囚の地および岡部陣屋

 国道17号の旧道を深谷方面に戻る。だいたいのあたりは付けていたのだが、すぐにはわからなかった。近くに幟が出ていたので助かった。如何にも急ごしらえの3台分の駐車場がある。「青天を衝け」でも前半でたびたび登場した場所だ。岡部の代官に御用金500両を言い渡された所だ。若き栄一は、地団駄踏んで悔しがり身分制の理不尽さを嘆き、尊皇攘夷へと進んで行く。今は、碑だけが残されている。小さな位置関係を示す標識を見ると、岡部陣屋が意外に広い。この場所は中山道深谷宿を過ぎ少し本庄方面に進んだ左に位置する。ドラマでは高島秋帆は牢獄に繋がれていたが、陣屋の藩士に兵学の講義もしていたという。実際は客分扱いだったのだろう。

 

11.尾形惇忠生家

 再び血洗島方面に進み、「下手計」の信号を左折、案内した方がなんて読むのか聞いたので「しもてばか」と教えたが、なるほど地名は難しい。惇忠の家に入ると奥でボランティアガイドが二組のグループに別れて解説していた。一組はボランティアガイドと、物知りの観光客(?)が掛け合いのように説明している。ちょっと辟易したのですぐに退散。ここも2階とか見えればと思う。

 

12.誠之堂・清風亭

 ラストに選んだのは大寄公民館の中にある東京から移築された洋館だ。誠之堂は、栄一の喜寿を記念して第一銀行(現みずほ銀行)の行員たちが出資し建築され、この地に移築された。煉瓦の壁面とステンドグラスが美しい。清風亭は第一銀行頭取であった佐々木勇之助の古希を記念して、誠之堂と並べて建築された。移築を担当したのは清水建設だ。因みに清水建設の新入社員は栄一の「論語と算盤」が必読らしい。(16:00)

 

 少し駆け足だったが、渋沢栄一にどっぷり浸かった一日となった。私は渋沢家とちょっとした縁があるため、若い頃から中ん家、墓所、華蔵寺など何回か訪れたことがある。前回は4年ほど前、さいたま市在住の方を案内した。その時、城山三郎の「雄気堂々」を読むように勧めた。今では大河ドラマや新一万円札など話題が尽きないため、本屋に行くと様々渋沢栄一本が並んでいるが、渋沢栄一の入門書としては丁度いいと思う。この方とは今でも時々渋沢談義をする。