2月24日ロシアがウクライナに侵攻(小川美穂子)

 二月二十四日は、私の誕生日でした。といっても、普段と変わらぬ日常。その上、少し関わっていることがあって、いつになく気忙しい日々でした。ニュースにも触れていなかったので、少し後になって気がつきました。

 「まあ、なんてこと。戦争が始まったのは、私の誕生日なんだ」。

 それからというもの、紙面のここかしこに、自分の誕生日の日付が、踊っていました。

 

 つい最近までは 「まさか、自分が生きているときに、こんな未曾有の事態になるなんて」と、思いながら、コロナ・パンデミックを耐え忍んでいました。寄ると触ると、新知識が織り込まれ、「ペスト」を読み、苦手な科学雑誌を紐解いたりしていました。実際生活の場面では、初期にマスクを探し求めて大変な思いをしました。それも過ぎてしまえば、忘れ果て、「アベノマスク」なんて流行語だけが残っています。

 人はみな、たくさんのことを飲み込んで、毎日何事もなかったかのように息をして、暮らしています。私は思うところあり、ワクチンを打たないし、不要不急の外出も控えないけれど、日常は色を失ってしまいました。旅行、観劇、結婚式、祭り、祝宴・・・ お歳を召した方々にとっては、そんな機会がもう二度と、再びもてないということになるのだと、先日、教えられました。

 そして、戦争です。

 まさか、自分の生きている時代にこんな思いをするとは。

 戦争はあっけなく、そのかたちを現しました。

 

 私は怖くて、不安で、何をやっていても重く暗い影を背負っています。

ある日、つい口にしたのは、「寒さの中で食べ物も寝るところもない人たちのことを思えば、○○なんて我慢できるわよ」。 これって「ほしがりません。勝つまでは」じゃなかろうか。

 

 自分はほとんどテレビは観ないし、ネットで溢れかえっているという歴史物の映像も観ていません。観たくないです。でも、今日、様々な情報が飛び交い、戦争に向き合う世界の、国家の、そして市民の行動も言動も刺々しくなっています。もっと怖いのは、なにが本当なのか、事実が見えにくくなっているような気がするのです。

 3.11の直後のことです。ふっと耳に入ったのは、おばあちゃまが、お迎えに来て、保育園児に「放射能で危ないから、お外で遊べないの。お家へ帰ろうね」。その時、愕然としました。「放射能」の恐ろしさを幼児でも知っていること。自分たちの生活の危うさと無力感と。

 私達は大地震と放射能と、そしてコロナ・パンデミックを経験しました。

 今度は、戦争です。

 学生時代、国語国文科専攻だった私は、一応一通りの文学史を習っています。あの頃、「戦後文学」というジャンルのものが好きでした。文学者は如何にして自分の体験した戦争を総括して、書き表したか。その後時代はどのように進んでいったか。ノンポリの劣等生でしたが、そして「遅れてきた青年」の更に後をいっていましたが、まだ学内には学園闘争の名残がありました。肌で感じるものが確かに、そこにありました。

 ずっと経って、熊谷で暮らすようになり、縁あって「熊谷空襲」を知りました。はじめは一人で聞き書きをしていましたが、当会で仲間に恵まれ、会として本を出すまでに至りました。この間、敬愛する人生の大先輩に多々出会えました。

 

 先週、星川で生まれ育ったSさんと電話で話しました。絶望感に陥っていた自分に「ほんとにね。五才で空襲を体験した自分だけどね。大丈夫だから。あなたみたいにまっすぐな人は、こんなことに負けないでね」と返して下さいました。あるいは、久しぶりに喫茶店で会ったOさんは、私が「星川だより」を手渡そうとしたら、「ごめんね。自分は、空襲の話は駄目なんだよ」。その暗い目。「戦争は絶対に駄目だよ」というTさんとは十数年ぶりの邂逅でした。それから、朝から晩まで戦争の報道に見入っているというIさん。

 「人間は考える葦である」。パンセの言葉をまたも思い返しています。というのは、先日、高城三郎先生は、更に聖書の「出エジプト記」にまつわるウィルソン首相のエピソードを話して下さいました。若い人に贈る言葉は?と話を向けると、その答えは「大いに学んで下さい」。

 さあ、人間はどこへ向かうのか。この後、どんな芸術が生まれてくるのか。そして、新しい人は目覚めるのか。大江健三郎が何か言ってくれないかな。何より、「おかあさん!!!」

                             三月十五日記

 

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コメント: 2
  • #1

    yachang (金曜日, 18 3月 2022 12:27)

    映画のことだから小川さん,↓もう視ているかな...
    オリバー・ストーン監督出演の「ウクライナ・オン・ファイヤー 日本語字幕(字幕改正版)」(2016年制作)最新版

    https://www.facebook.com/yasuhiko.shinozaki/posts/7299323460141922

  • #2

    吉田庄一 (金曜日, 18 3月 2022 17:49)

    篠崎さん、観ました。ロシアのウクライナ侵攻の背景を勉強するのに最適ですね。私の場合批判的にというか相対化させて考えるようにしています。国際女性デーに際してNATOがUPしたウクライナの女性兵士画像ですが、彼女の軍服にナチスの紋章である「黒い太陽」がついていました。NATOは指摘され慌てて削除しましたが、これは世界中の極右のシンボルです。ウクライナの極右ナチ組織アゾフの公式ロゴとか。彼らは反ロシア、反ユダヤ、反アジア、反LGBTを掲げる白人至上主義者たちですが、欧米は反ロシアの先兵として使っています。ウクライナ軍と一体化しているんですね。