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書評「太陽の子」(吉田庄一)

作 者;三浦英之

出版社;集英社

 

このルポルタージュは、朝日新聞の記者である三浦英之さん自身のツイッターに投稿されたメッセージから始まる。

「朝日新聞では、1970年代コンゴでの日本企業の鉱山開発に伴い1000人以上の日本人男性が現地に赴任し、そこで生まれた日本人の子どもを、日本人医師と看護師が毒殺したことを報道したことはありますか?」

この投稿は、アフリカ特派員として南アフリカのヨハネスブルグに駐在していた、20163月のことだった。

 

ツイッターの情報源は、2010316日に配信されたフランスの国際ニュースチャンネル「フランス24」で、「カタンガの忘れられた人々」と題された報道だった。

要約すると、コンゴは鉱物資源が豊富で今は中国が巨大投資をしているが、1970年代に操業していたのは日本人で、地元のコンゴ女性との間に子どもをもうけたが、その子どもたちは殺され、生き延びた子どもたちは互いに集い答えを模索している、というものだ。これに補完するように、その子どもたちや鉱山関係者などの証言が添えられている。三浦さんは、「信憑性」とフランス24の「報道姿勢」に疑念を持ち取材することを決意する。

 

本書は、様々な制約や困難を伴いながら敢行したコンゴでの取材、日本での取材の記録である。そして浮かび上がったのは、50人から200人存在するという、アフリカに置き去りにされた子どもたち(多くは40代になっている)の実態だった。子どもたちは、父兄社会のコンゴで父親がいないこと、肌の色が白いことで、ずっとイジメにあいながら生きてきた。食べるのもやっとだった。しかしそんな彼らを知り手を差し伸べていた日本人が2名いた。一貫して取材に協力してくれた日本カタンガ協会の田邊好美(たなべよしはる)さんと日本人シスターの佐野浩子さんだ。筆者は「正しいこと」を自問しながら勇気を振り絞り取材を続けるが、ハードルが高く、読み進めていくと高い壁や絶望感も広がるのだ。読書後の感想だが、この二人の存在は大きく、どうにもならないもどかしさの中、一抹の光明となっている。「中村哲」さんはここにもいるのだ。

 

取材に応じた日本人残留児たちだが、名前に日本名を持ち自分たちは日本人であるという強い意志がある。ほとんどの人は父親を知らないのだが、父親に会いたい、父親の今を知りたいという思いがひしひしと伝わってくる。父親に対する恨み辛みを超越した人間として誰でも持つだろう思いなのだ。彼らにとってはアイデンティティの確立が必要なのだ。

 

ところで、コンゴの地に鉱山を開発して1000人もの日本人労働者を送り込んだのは日本鉱業(現JX金属)だ。主に日本国内の炭鉱閉鎖などに伴い職を失った労働者をアフリカに送り込み、監獄のような粗末な住居に入れられ働いていた。彼らは近くの村にくりだし若いアフリカ女性(13歳から16歳くらい)と関係を持ち、子どもが生まれ結婚もするが、事業の撤退とともに子どもを置き去りにして日本に帰ってしまった。

 

想像に難くないが日本での調査は簡単ではなかった。企業はそんな事実は認めようとしないし、当時医師を派遣していた長崎大学の医学部も非協力的だ、なにより関係者の口は重い。しかし取材を通じてわかってきたのは、フランス24やのちにBBCが同じスタンスで報道したが、「嬰児殺し」の事実はないということだ。田邊さんの指摘にフランス24は反応しなかったが、BBCは非を認めないが報道そのものを自社の基準に抵触するとして削除した。実は、両報道機関の現地スタッフは同じコンゴ人記者で、日本の企業や政府から賠償金をもらいその20%をピンハネするつもりだったのだ。

 

 

本書では、日本人残留孤児と父親たちとの再会はかなっていない。年齢を考えると残された時間はあまり長くないだろう。なんとしても父親たちとの再会や確かな消息を彼らに届けられることを願う。

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コメント: 2
  • #1

    吉田庄一 (月曜日, 13 11月 2023 07:31)

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  • #2

    吉田庄一 (月曜日, 13 11月 2023 09:51)

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